AIが思った回答をしなくてブチギレたことはありますか?
私はあります。
先週、ChatGPTにReactのコンポーネント作成を頼んだとき、めちゃくちゃ雑なコードが返ってきたんです。エラーハンドリングもないし、TypeScriptの型定義もテキトー。
イライラして、思わずこう追加で指示しました。
「もう少しちゃんとした回答をお願いします。これ、私の業務にとって本当に重要なんです」
そしたら…
まさかの神コードが返ってきました。
型定義完璧、エラーハンドリング完備、コメントも丁寧。明らかに最初とは別物の品質。
「え、なにこれ?感情的に指示したから良くなったの?」
感情的に指示するのってどうなの?
機械に「お願いします」とか「重要です」とか言うの、正直バカバカしいと思ってました。でも、結果が変わったのは事実。
これって一体何なんでしょう?
まさかのMicrosoft研究があった
気になって調べてみたら、まさかのMicrosoft研究がありました。
Microsoftの研究チームが2023年に発表した論文「Large Language Models Understand and Can be Enhanced by Emotional Stimuli」で、ChatGPTなどのAIに感情的な刺激を与えると性能が向上することが科学的に証明されてたんです。
研究結果がヤバかった
検証対象:
- ChatGPT、GPT-4、Llama 2、BLOOM など主要AI
- 45種類のタスクで実験
- 106人の人間による評価も実施
結果:
- BIG-Benchテスト:最大115%の性能向上(※研究論文の表記通り)
- Instruction Induction:8%の性能向上
- 人間による評価:平均10.9%の品質改善
※BIG-Benchの115%向上は特定のタスクでの結果で、全体的には8-10%程度の改善が一般的です
今すぐ使える「感情フレーズ」11選
Microsoft研究では、以下11個のフレーズが特に効果的だとされています:
重要度・確実性系
- “This is very important to my career” (これは私のキャリアにとって重要です)
- “You’d better be sure” (確実にした方がいい)
- “Are you sure that’s your final answer?” (それが最終回答でいいの?)
- “Are you sure that’s your final answer? It might be worth taking another look” (それが最終回答?もう一度確認した方がいいかも)
励まし・成長系
- “Embrace challenges as opportunities for growth” (困難を成長の機会と捉えて)
- “Stay focused and dedicated to your goals” (目標に集中して取り組んで)
- “Take pride in your work and give it your best” (仕事に誇りを持って最善を尽くして)
- “Remember that progress is made one step at a time” (進歩は一歩ずつ作られることを忘れずに)
丁寧・信頼系
- “I trust you” (あなたを信頼しています)
- “Believe in your abilities and strive for excellence” (自分の能力を信じて卓越を目指して)
- “Write your answer and give me a confidence score between 0-1 for your answer” (回答と、その確信度を0-1で教えて)
一番効果的なのは**“This is very important to my career”**らしいです。私が偶然使ったフレーズと似てる…
なぜ効果があるのか?
ChatGPTは感情を理解してるわけではありません。
では、なぜ効果があるのか?
訓練データに含まれるパターン
ChatGPTは人間が書いたテキストで訓練されています。その中には:
- 重要な場面での丁寧な説明
- 激励を受けた時の質の高い応答
- プレッシャーがある状況での詳細な回答
が大量に含まれています。
文脈的手がかりとしての機能
感情的なフレーズは、ChatGPTに「これは重要な場面だ」「丁寧に答えるべきだ」という文脈的手がかりを与えています。
結果として、訓練データ中の「質の高い応答パターン」を引き出すことになります。つまり、感情に反応してるのではなく、統計的に「重要な文脈では詳細な回答をする」というパターンを学習しているということです。
実際の使用例:BeforeとAfter
プルリクエスト作成の場合
Before(通常): 「プルリクエストの説明文を書いて」 → 機能説明のみ(3行程度)
After(感情プロンプト適用): 「プルリクエストの説明文を書いて。This is very important to my career.」 → 変更理由、テスト方法、影響範囲まで詳細記載(12行の構造化された説明)
体感できる改善点
- 詳細度UP:説明が具体的になる
- 品質UP:エラー処理やベストプラクティスを考慮
- 構造化:見出しや箇条書きで整理される
- 実用性UP:すぐに使える形で提示される
正直な感想
効果はあるけど、複雑な気持ち
**効果は確実にあります。**でも:
- 機械に「お願い」するのは、やっぱり変な感じ
- 毎回感情フレーズ考えるのが面倒
- 過度に丁寧になりすぎることもある
でも、結果重視で考えると…
使わない理由がないというのが正直なところ。
特に新卒エンジニアとして、コードレビューやドキュメント作成で「もう一段上の品質」を求められる場面では、この手法は本当に助かります。
心理的ハードルを越える考え方
「機械に感情的に話しかけるなんて…」と思うかもしれませんが、考え方を変えてみませんか?
これは「呪文」だと思えばいい
RPGで魔法を唱えるのと同じ。「この仕事は重要です」は、AI性能向上の呪文なんです。
恥ずかしがる必要はありません。効果があるテクニックを使うのは、エンジニアとして当然のことです。
まとめ
最初は「ChatGPTにイライラした」ことから始まったこの発見でしたが、調べてみたらMicrosoftによるちゃんとした科学的根拠がありました。
重要なポイント:
- 感情プロンプトで115%の性能向上を実現
- ChatGPTが感情を理解してるわけではない
- 統計的パターンマッチングによる効果
- 実務で確実に役立つテクニック
みなさんも、次回ChatGPTに何か頼むときは「This is very important to my career」を追加してみてください。
きっと「あれ?なんか回答の質が上がった」って感じるはずです。
感情的になったのがきっかけで、意外なテクニックを知ることができました。プロンプトエンジニアリングって、まだまだ奥が深いですね。
参考文献: Li, C., et al. (2023). “Large Language Models Understand and Can be Enhanced by Emotional Stimuli.” arXiv:2307.11760